2019年12月31日火曜日

2019年に読んだ本 僕の「極私的」ベスト10

 昨年末、「来年は週に1冊程度は読みたい・・・」と書いたけど、結局読めたりはその半分程度。その程度しか読んでいないのにベスト10とは何様だ! という批判は当然だと思う。自分自身を批判したい気分である。でも、まあ極私的なので・・・・
いつものように、あくまで2019年に読了した本ということで、少し古いのもあったりします。


2019年は私的には圧倒的にこの本が第1位。
第1位 ハンス・ロスリング「FACT FULNESS」日経BP社
 ビル・ゲイツが大卒の希望者全員にプレゼントしたという「名作中の名作。世界を正しく見るために欠かせない一冊だ」。
 僕らは、過去の知識のまま生きているということ。そしてそのことが、つまり現状を正しく認識していないことが、政治やビジネスにおいて誤った判断をすることになっているということ。
世界はすごく「進歩」しているにもかかわらず、数十年前に習った知識を僕らは更新せずに、数十年前の知識で世界を認識している。それは、学者やジャーナリスト、ビジネスや政治の指導者も同様であることが明らかにされ、思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣を提唱する。

 世界人口のうち、極度の貧困にある人の割合は、過去20年でどう変わったか? 
          A: 2倍になった
          B: あまり変わっていない
          C: 半分になった
 ネットやマスコミの報道だけだと、格差は拡大し、貧困は固定化され、世界の分断は進んでいるように思えてしまうが、実際は国連や世界銀行の取り組みは確実に成果を生んで、極度の貧困者は劇的に減ってきている。
 こんな話がたくさん。


 データ、事実から出発しよう。世界はいい方向に変わっているんだから。


2019年も旅本はずいぶん読んだ、かな。どれも、そこそこ面白いんだけど、突き抜けるほどの面白さを、ワクワク感を伝えてくれるはそうはない。
第2位 北澤 豊雄「ダリエン地峡決死行」産業編集センター
 コロンビアとパナマ国境に広がるダリエン地峡。ここで、中米と南米は完全に断絶されている。道路はなく、グーグルで検索しても経路が出ないという。基本的に、飛行機で飛ぶか、カリブ海、または太平洋を渡るしかない、そんな場所。年間降水量が2万ミリを超える密林に反政府ゲリラ、麻薬組織が蠢き、そしてスペインが侵略する前から先住民が生活を営んでいる地。
 そんな場所がまだあったのか、ということにまず驚く。そして著者は、その道無き道をコロンビアからパナマへ踏破しようとする。3回目のチャレンジで友人になった先住民のエドガルとともについに走破する。ところが、国境を越えた村で警備隊に捕らえられ、拘束され・・・・。ダリエン地峡での命の危機、よりも拘束されたのちの話が興味深い。
 そして、この危険な地域を、そうとわかっていながらも越えていかなければならないアフリカや南米やアジアの人々がたくさんいるという現実が、今現在の地球上の絶望的な「格差」を物語っている。

第3位 坂田 ミギー「旅がなければ死んでいた」KKベストセラーズ
 著者があとがきでまとめている。「出国直前に恋人にフラれた、アラサー独身彼氏ナシが、傷心のまま旅に出て、いろんな出会いを通して立ち直り、成長し、旅の最後の街で、恋に落ちて結ばれた話」。
 トナカイ遊牧民ツァータン、ガヴドス島、ムスタン王国、カオコランド、アフリカバーン・・・・・。世界はまだまだ不思議に満ちていて、そして僕の知らない幸せな、楽しい時間を過ごしているたくさんの人がいる。えっ、そんなところがあるの? なに、そのイベント? というのがこれでもかと。そして著者は脱ぐ。ギリシャで、ナミビアで、南アフリカで、アメリカで。すぐ全裸になるのである。世界中、こんなにも全裸で過ごせる場所やイベントがあるのにもびっくり。世界は広いし、僕の常識なんて僕の周り半径1000Kmくらいでしか通用しないんだ、きっと、と思わせてくれる。いろんな人がいて、それがいいって思わせてくれる。この星はとっても豊かだ。


辺野古のニュースを見ると、この国に絶望的になる。アメリカからヤマトに支配者が変わっただけで、沖縄は蹂躙され続けている。
第4位 真藤 順丈「宝島」講談社
 敗戦後の沖縄。アメリカーとヤマトに蹂躙されつづける沖縄。史実を追いながら、当時を生きた沖縄の若者たちを描ききった傑作。圧倒的な権威、権力の元に生きる息苦しさ、どうやっても解放しきれない身体と精神。読んでいて息苦しくなる。
 基地から生活必需品を略奪して住民に配る、戦後間もない戦果アギャーの時代から1970年のコザ暴動まで。ヤマトから捨て石にされ、アメリカーに占領されていた時代。物語を案内する語り部の沖縄言葉が、沖縄の人々のもつ複雑な感情を際立たせる。
 
 コザ暴動から50年経った今も、本質的には何も変わっていないということを物語はヤマトの人間に突きつけた。読んだ後、今度沖縄に行ったら、これまでと同じでは決していられない、と思った。


昨今のニュースを見ていると、今の政府はもしかしたら戦争したいのかと思ってしまうこともある。これからもずっと「戦後」であって欲しいのだけど。
第5位 吉田 裕「日本軍兵士--アジア・太平洋戦争の現実」中公新書
 310万人が亡くなった先の戦争。軍人・軍属の死者は230万人で、ほとんど国内ではなく、また1944年以降の絶望的抗戦期と呼ばれる中での「悲劇」である。自然災害と比較するのは憚れるのだが、東日本大震災の犠牲者は約15,000人である。それでもあれだけの悲しみが全国を、世界を覆ったのである。その200倍の悲しみ・・・。
 本書には悲しみと、絶望だけがある。戦地の現実、戦闘ではなく餓死などでの死者の方が多いという事実。たくさんの私刑、自殺。追い詰められていく肉体と精神。資料によって事実、数字を積み上げ、元兵士たちの声を拾う。
 何よりの絶望は、なぜ僕らの少し前の世代は、あんな指導者を見出してしまったのか、ということ。たくさんの分岐で選んだのは、たぶん多数の選挙権のある男たちだったのである。


2019年はラグビーW杯の年として記憶されるだろう。
第6位 山川 徹「国境を越えたスクラム  ラグビー日本代表になった外国人選手たち」中央公論新社
 2019年ラグビーW杯の日本代表の約半数は外国出身の選手たち。1次リーグをトップ通過してベスト8に進んだこの素晴らしいチームに、僕たちはこの国、社会の進むべき道を見た。
 1980年、トンガからの最初の留学生ノフォムリとホポイが来日する。そこから続く、外国出身選手と日本のラグビーの関係。留学する側も、受け入れる側もたくさん困難があったが、そしてそれは多分多くが受け入れる側に起因するものであったが、ラグビーの素晴らしい精神性はそれらを乗り越えていく。そして、外国出身の選手たちは、自ら日本代表になることを選んでいく。彼らがなぜ日本代表を選ぶことになったのか、その答えがこの本にある。日本の未来もまた、この本にある。
 
 ラグビーの持つ精神性。肉体的にも精神的にも極限状態の中で、規律を守り、自己を犠牲にし、目的のために最善を尽くす。それは、仲間、チームメイトを絶対的に信用するということ。そこに国や人種が介在する隙は1mmもない。絶対的に信用できなければ、極限状態の中で規律を守り、自己を犠牲にすることなどできっこない。

 代表やクラブや大学、高校でこんなチームを持つことができている、という事実は、ちょっとだけこの社会の未来に光を与えてくれる。僕らもできるはずだと。


大阪の「本は人生のおやつです!」という本屋さんの店主に勧めていただいた本。店主はこの本が、現在の本屋さんを始めるきっかけというか、背中を押してくれたんだという。
第7位 水木しげる「ほんまにオレはアホやろか」講談社文庫
 漫画家・水木しげるの「ゲゲゲの女房」前史。自伝。只者ではない。付録のオリジナルイラストカードには「好きなことをやりなさい」。でも、好きなことはやるけど、そうでないことも引き受けてしまう。長く続けることはないけど。
 水木しげるは、新聞配達をしていた。魚屋をやっていた。アパート経営もやっていた。松下電器に勤めたこともある(1日ももたなかったけど)。戦地では、片腕をなくし、地獄を見た。しかし、現地の人々と特別な関係も築いていく。

 飄々と生きている、というのは時代背景を考えると軽々しい言葉になるだろう。文体はそんな感じだけど、著者はあとがきでこう書く「人間、つまらんことでも骨をおっていれば、やはり、天の報いみたいなことが、あるように気がする」。本当に一生懸命に生きていた人なんだと、あまり一生懸命に生きてきたと言えない僕は深く深く、恥いるのである。

 水木しげる、格好いいのである。

第8位 安田 純平「シリア拘束 安田純平の40か月」
 40か月である。
 40か月もの間、シリアで拘束され続けたジャーナリストの記者会見録である。なによりも40か月もの拘束、凄まじい暴力に耐え切れる精神性、に驚嘆する。たぶんそれは、彼の知識と教養によるものなんだろう。それが「生きる」ことに力を与えた。絶望しない力は、知性に宿る。それがこの、解放という素晴らしい結末を得ることができた最大の要因なんだと、読後に改めて思った。その点は「夜と霧」と等しい。
 細部にわたるメモ、状況を客観的に捉え続ける視点、それらはジャーナリストとして得てきたものだろう。それらは我々の貴重な共通の財産になる。

第9位 木村 誠「大学大崩壊 リストラされる国立大、見捨てられる私立大」朝日新書
 著者は書く「文部科学省や財務省の「大罪」を明らかにしたつもりだ」と。研究費と研究時間の確保に疲弊し、ポスドクや非常勤講師として有為な研究者を使い捨てにし、奨学金という名の借金で卒業後の学生を追い詰める。それらすべてが、大学から活力を奪い、研究は先細っていく。研究の成果は出ず、国際競争力は失われていき、そして大学は崩壊する。
 財務省と文科省の政策全部が大学を崩壊させていく、その過程を追う。教育は国家百年の大計というけれど、大学の崩壊はつまりこの国の崩壊にきっと繋がる。財務省と文科省の罪は大きい。

 しかしこれは、解がない問いではない。著者はいくつかについて他国の事例などを引いて、すでに見本があることも指し示す。日本の高等教育への進学率は依然として低いし、研究の成果も出なくなってきている。なんとかしないと、この国は確実に崩壊する。

第10位 吉田 正仁リヤカー引いてアフリカ横断」小学館
 すべての荷物をリヤカーに積んで、エジプト・アレクサンドリアから南アフリカ・喜望峰まで歩く、約1年間の徒歩の旅。
 歩いていけるんだ、世界はそれなりに平和で安全なんだと思う一方、ケニア北部では治安の問題でどうしても歩けなかった地域があり(そこは、他の、例えば自転車で同様のコースを旅している旅人たちもやはりバスで移動していた)、やっぱり世界は安全じゃなくなった、と思ったり。人が住んでいない地帯が数十キロ続く砂漠、照りつける太陽による熱風で昼間は一歩も歩けない灼熱の、僕らが一般的に思い込んでいるアフリカが本当にそこにあり、それは過酷で、「なぜ俺はこんなにもきつい徒歩の旅を自ら好んでやっているのだろうか」と自問する。それでも、歩くスピードで交流するアフリカの人々と、過酷な移動の末に現れる素晴らしい景観に心を奪われるのである。アフリカもまた、素晴らしい。美しい。

来年こそは、1週間に1冊程度読みたいな!