2022年12月31日土曜日

2022年に読んだ本 僕の「極私的」ベスト10

  今年は新しいことに取り組み始めて、朝の30〜50分くらいを読書に充てることができなくなってしまった。まあ、言い訳なんだけど、そんなことで読書量はずいぶん減ってしまった。ずいぶん減った中でのベスト10ということで。いつものように、2022年に出版された本ではなく、あくまで僕が2022年に読んだ本から。


 今年はやっと海外へ行くことができた。実に2年半ぶり。仕事で・・・なんだけど、日本の閉塞感から解放されて、とてもいい気分だった。まあ、内実は色々と大変ではあったんだけど。

で、第1位はやはり旅の本。語学の本っぽいタイトルだけど、そしてそれもまあ間違いないけど、何しろ高野秀行なんだから、やっぱり旅本。

第1位 高野秀行「語学の天才まで1億光年」(集英社インターナショナル)

 冒険家・高野はなぜミャンマーの麻薬地帯や、謎の独立国ソマリランドや、アマゾンの奥地や、アフリカでの幻獣探しや・・・そんなところを、探検することができたのかの回答の一部がここにあった。彼は語学の天才だった。否、学び方の天才だった。学んだ言語は25以上。英語はもとより、フランス語、リンガラ語、コンゴの諸民族語、スペイン語、ポルトガル語、タイ語、ビルマ語・・・・超具体的学びの方法。

 この学び方は、多分誰れにでも適用可能。


 著者はエピローグでこう言っている。「機械翻訳・通訳がここまで進化した今、果たして語学をやる意味はあるのか?」「ITでまかなえるのはもっぱら「情報を伝えるための言語」なのである。いっぽう、「親しくなるための言語」はそもそも情報伝達には必要ないものなのだ。」「興味を抱いた他人と、ガラス越しではなくじかに触れたいと思うことは、人間の本能に根ざしているのかもしれない」


 また、言語が人間そのものや、その生活文化、あるいは、地域や社会や地球の認識の仕方と深く関わっていることは、この本のもう一つのテーマとなっている。機械翻訳では、その生活文化や思想は本当のところはいつまでも翻訳された=自分たちの言語で表現される範囲でしか理解できない。だから、言語はやはり学ぶ必要があるのである。


 語学の天才的学び方論だけど、辺境作家なんだからやっぱり旅の本。現地の言葉ができると、旅は何倍にもステキになるっていう旅のノウハウも満載。


 コロナ禍の中の学生たちの「闘い」の記録。学生の海外ツアーを再開するにあたってこの本は背中を押してくれた。

第2位 北野真帆「コロナ禍を生きる大学生」(昭和堂)

 パンデミックが始まった2020年2月に世界中の留学先にいた学生・院生。十分には言葉の通じない国で、情報が錯綜、次々に更新されてく中で、残るのか、帰国するのか、悩み、決断する過程。今の自分のこと、少し先と未来の自分のこと、家族と故郷の安全のこと、迫られる自己責任、様々な葛藤の中で皆自分で結論を出していく。そして、行動。スゴイ臨場感。スゴイ決断。


 あの時、多分数十万の留学生がいたはず。その一人ひとりが、未知の、経験したことない状況の中で、「決断」をして「行動」をした。彼ら、彼女らはもうどこででも生きていけるだろう。そのことはもっと語られるべき体験で、共有されるべきものだろう。企画した学生、北野さんが素晴らしい。


 スウェーデンに留学てしていて、帰国しない決断をした濱岡さんの言葉。長いけど、素晴らしいので引用。

「前例のない事態が発生したとき、これまで適用されてきたルールや方法が本来の機能や役割を果たさなくなってしまうことがある。今後も世界は急速な変化を続けるだろうし、大なり小なりの「前例のない非常事態」を、誰しもが経験することになるだろう。そのような場合においては、前例や周りの人が言うことを唯々諾々と従うことがただ一つの道ではないということを強調しておきたい。誰にも正解がわからないような状況においては、その外部にも前例やルールの中にもない一筋の光が、その混沌の中にいるものにこそ見えているかもしれないからである。」


 それにしても、たった数ヶ月の留学でも、彼女ら(執筆者は全員女性)は、素晴らしい「学び」「体験」をしていたことがわかる。留学先大学での新しい友人、寮やホームステイ先での人間関係、地域社会との関わり、行った先は異なるが留学生同士のネットワーク、語学、研究の成果・・・・。感動する。


 ※第3部は大学の教員の論考。科研費を使った出版だから仕方ないんだろうけど、つまらない。学生たちの体験記を読んだ最初の感想が「だからなに?」な先生たち。


 この人も闘っていた。今、どうしているんだろう?

第3位 岡田晴恵「私闘: 私の「コロナ戦争」全記録」(新潮社)

 著者はコロナの女王と言われ、新型 コロナ感染拡大の極初期からテレビに出ずっぱりで解説していた、国立感染症研究所の元研究員で、現白鵬大教授。感染免疫学、公衆衛生学の専門家。

 

 サイエンスに基づいた専門家としての発言は全くぶれず、それが研究者としての自らの「使命」に基づくものであったことがわかる。研究者、科学者とは、こうあるべきということを貫いていく強さに感動する。


 一方、分科会の尾身氏や岡部氏を、公よりも私を優先したと断罪する。政権に取り入って、重要な、権威であることの魅力に取り憑かれたのだろう。そもそも最初から間違っていたと指弾する。「最初に新感染症としなかった」判断が、この2年間のコロナとの戦いに敗北し続けた要因であると指摘する。


 そもそも尾身氏も岡部氏も呼吸器系感染症の専門家ではないのに、なぜ国民の命を預かるような要職に就いたのか、就けたのか、その経緯はこの著書ではわからない。しかし、著者は専門家のふりをした科学者の、サイエンスに基づかない発言や政策に、自らの身を削りながら、対峙していくのであった。まさに「秘闘」だった。


 2022年はウクライナ戦争によって記憶される年となった。どうしてこんな野蛮がこの時代に起こってしまったのか。そして、僕らは希望はないのか? これは希望の書。

第4位 ルトガー・ブレグマン「希望の歴史」(文藝春秋)

 「万人の万人に対する闘争」は正しくない。「ほとんどの人は、本質的にかなり善だ」ということを多くの事実から証明していく。


 ロンドン大空襲、「蝿の王」、「利己的な遺伝子」、銃を撃たない兵士、ジャレッド・ダイヤモンドのイースター島の物語、スタンフォード監獄実験、ミルグラムの電気ショック実験・・・信じられている多くの「事実」は実は事実ではなかったことを暴き、人間が本質的にはどれだけ善かを証明していく。


 後半では、「最悪な人間を想定した現在のシステム」= 法の支配、民主主義、資本主義・・・を乗り越えていく「最良の人間を想定したらどうする」から新しい世界を構想していく。コモンズ、アラスカの永久基金配当(一種のBI)、リゾートみたいな刑務所・・。


 謎は、本質的に人間はかなり善であるにも関わらず、どうしてホロコーストや野蛮な殺戮や、そしてウクライナへの攻撃が起こってしまうのか、ということである。著者は「私たちを最も親切な種にしているメカニズムは同時に、わたしたちを地球上で最も残酷な種にしている」「友情と忠誠心と団結、すなわち人間の最善の性質が、何百万という普通の男たちを史上最悪の虐殺へと駆り立てたてたのだ」と書く。それは、人類は身近な人には共感するが、1000人、100万人、70億人に共感することは不可能で、身近な犠牲者に共感するほど、敵をひとまとめに「敵」とみなすようになるからだという。つまり、共感が私たちの寛容さを損なうと。


 何回も繰り返し読んだけど、ここの部分がまだよく理解できない。では、どうすればこの悲劇を繰り返さなくて済むのだ? それは「最良の人間を想定したシステム」に置き換えていくことで可能なことなのか?  


 ただ、人間はそう簡単ではではない、ということは間違いない。


 なぜか今年は、ロシアに関連するものもいくつか読んだ。どれもウクライナ戦争の前に読んだんだけど・・・・なぜなんだろう。

第5位 逢坂冬馬「同志少女よ、敵を撃て」(早川書房)

 第2次世界大戦中のソビエト。ドイツに対峙する女性狙撃小隊。その女性たちの死と生。

 ドイツの狙撃手によって母親を亡くし、故郷の人々全てを亡くした少女を次に「襲った」のは赤軍兵。焦土作戦と称して、母親と全て村人、そして家屋に火を放った。少女は母親を撃った狙撃手と、母親に火をつけた赤軍の女性上級曹長への復讐を誓う。

 その女性曹長の機関で狙撃手となった少女は戦場でも行動を共にする。悲惨な戦場で見たものは・・・。戦争の中で、翻弄され蹂躙される非戦闘員の女性たち。そしてそれは、赤軍兵のドイツ人女性に対しても同じだった。

 その時、少女の敵はドイツ兵だけではなくなった。彼女が撃った敵は・・・。


 テーマの現代性と、戦場のリアルな描写。まるでその戦場にいるかのように臨場感。

 昔も今も、戦争の最大の被害者はもともと弱い人たち。


第6位 奈倉友里「夕暮れに夜明けの歌を 文学を探しにロシアに行く」(イースト・プレス)

 旅はしないけど、旅本。強烈な異文化体験。ロシアの社会思想は、いまだにトルストイやドストエフスキーや・・その他多くの文豪、文学者の思想や思索が底流にあるにあるらしい。すごい。共通知になっているということ。僕らは、漱石や鴎外や、川端も三島も、春樹だってみんな知っている、読んでいるっていう前提では話なんてできないのに。


 著者はソ連崩壊後のロシアへ。ペテルブルクの語学学校でロシア語を学んだ後、モスクワの国立ゴーリキー文学大学に入学。学生数は全学年合わせても約250人程度だが、ロシアでは知らない人はいない大学らしい。「文学大学」なんてあるのもすごいし、そのカリキュラムもすごい、というか・・・ロシアっていう感じ。卒業すると「文学従事者」という資格を得るらしい。

 学友も先生もユニーク。東京藝大をもっとずっと圧縮したような感じだろうか?  多分そうなんだろう。

 ソ連崩壊後の混乱・・・テロ、宗教、貧困・・の渦中のモスクワで文学を通じて先生や学友との交流。

当たり前だけど、ロシアの人々も普通に生きている。


逢坂冬馬と奈倉友里が姉弟だということを知ったのは、ずっと後のことだった。それはそれで、ちょっと驚いた。


 ここにも、悲惨があった。絶対的な権力は絶対に腐敗する。

第7位 フランクディケーター「毛沢東の大飢饉」(草思社)

 1958年から1962年、大躍進の時代の大飢饉。公開されつつある党の資料を緻密に検証して、その死者が4500万人、そのほとんどが餓死だったことを明らかにする。一切の私有を認めない人民公社、農業も工業も商業も全部が破壊されていく。毛と毛に忖度した党員による蛮行。一党独裁、独裁者への批判を許さない強権体制では、取り巻きは忖度し、出鱈目を働き、そして被支配者は殺される。

 4500万人はどのようにして殺されたのか、その一部始終が明かされる。

 そしてこの蛮行は、文化大革命へと繋がっていく。


 これもずいぶん昔の本。ハンス・ロスリング「FACT FULNESS」(日経BP)よると世界は随分と良くなってきているはずなんだけど・・・・

第8位 石井光太「アジアにこぼれた涙」(旅行人)

 著者がまだ若い頃、2000年から2008年のアジア。路上で、孤児院で、安宿で・・・難民や路上生活者、孤児たち「底」で生きている人々と一緒に過ごし、取材した記録。

 アフガン、スーダン、シリアからの難民たち。「幸せの国」ブータンからの難民がネパールに、世界からの関心を集められずに取り残されていることは、この本で初めて知った(2022年現在、多くが第3国に移住、定住しいるらしい)。

 

 底で生きる人々の、多くの「絶望」と少しの「希望」を描く。

出版から10年経った今も、残念ながら、世界ではまだ新たな「底」が溢れている。大きな物語ではなく、一人ひとりの「生」に物語があることを忘れてはいけない、と本書は語っている。一人ひとりの「生」。


 本屋さんと大袈裟ではない農業、あるいは家庭菜園。今後の人生のテーマとなりそうなこと。

第9位 ショーン・バイセル「ブックセラーズ・ダイアリー スコットランド最大の古書店の一年」(白水社)

 「こんなお店一年以内に絶対潰れるよな」と高校生の時に話していた古書店を、30歳で買ってしまった店主の一年。

 

 ライバルはamazonのキンドル。店内では撃ち抜かれたキンドルがインスタ映えする。でも一方で、amazonマーケットプレイスから注文は重要な収入源。それに、この本はamazonのキンドル版がベストセラーになったらしい。


 古書店を訪れる一癖も二癖もある客。客にも増して個性ある従業員。古書の買取、ブックフェスティバルのあれこれ・・・・。10万冊も在庫のあるスコットランド最大の古書店の毎日が「楽しい」。


第10位 福岡正信「自然農法:わら一本の革命」(春秋社)

 朝日新聞Globeでアメリカの不耕起農法を特集していたのを見て、そのルーツが著者の「わら一本の革命」にあることを知った。

 この本では、まるで自然農法=不耕起栽培が突然天からの著者に降ってきた思想で、実際にそれを実行してそれまでと同等、またはそれ以上の収穫をするのだが、少し「哲学・思想」に傾倒すぎ。初版が出た1975年頃ならともかく、いや当時もそうだろうけど、非科学的な記述が多すぎるのはきになるところではある。しかし、それを補って余りある自然農法の具体的方法とその成果。具体的と言ってもコメ、麦についてのみ。


 そういえば「奇跡のリンゴ」の主人公もこの本に影響されたのだった。


今年はあまり読むことができなくて、積読本がたくさんある。2023年はそれらの本から・・・かな。

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